刑事コロンボと「トリカブト疑惑」の点と線

前の回では、日本で"超"有名な疑惑事件であった「ロス疑惑」事件が、もしかして、コロンボシリーズの「逆転の構図」から

ヒントを得て起こったものではないか?との私の推理をお話ししました。今回は、それに続く私の推理第二弾です。

今回のストーリーは、42話の「美食の報酬」です。料理評論家のポール・ジェラード(ルイ・ジュールダン)がレストランの

オーナー、ヴィットリオ・ロッシを殺害して始まります。

テレビ番組やCMで有名なジェラードが、ヴィットリオの経営するレストランの料理の評価をお金の支払いと引き換えに加減している

(現在の食べログやぐるなび?)ことに腹を立てた彼の口を封じたのです。そうしなければ、彼の悪事が世間に暴露され、彼の名声は

一夜にして崩れ落ちてしまうからでした。では、どうやってヴィットリオを殺害したか、です。

彼が殺害に使ったのが「ふぐ」の毒。テトロドトキシンでした。ワインオープナーに毒をまぶし、ワイン好きのヴィットリオに一杯飲ませる。

やがて、かれは体中がしびれ、呼吸困難に陥り、死亡する。全く証拠の残らない完全犯罪をもくろんだのです。

日本の魚を犯罪に使うとは、これまた発想がユニークです。さらに、この回では、日本料理店や芸者など、日本文化を感じさせる場面が

多く放送され、日本人としては少し誇らしくもありました。


さて、コロンボの話はここまでとして、これによく似た事件が日本でも起こりました。

1986年(昭和61年)5月20日に発生した"ある"殺人事件です。(「美食の報酬」は1978年5月放送:日本)

こちらは「保険金殺人」という成功率の極めて少ない犯罪の中で、ある毒物が使われたのでした。

それは「トリカブト」。ドクウツギ、ドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つであるこの植物を使って、

妻になる人を次々と殺害していった史上稀にみる知能的保険金犯罪でした。

旅行先の沖縄で立ち寄った那覇空港で急用を思い出したKは、大阪へ戻るため石垣島への旅行を取りやめ、

妻と友達を見送りました。それから、1時間半後、妻は激しい悪寒、麻痺、発汗の症状を催し病院へ運ばれたものの

「急性心筋梗塞」でなくなりました。

このとき、この死を不審に思った沖縄県警による行政解剖により、遺体から採取・保存された血液から

のちに「トリカブト毒」と「テトロドトキシン」が検出されたのでした。

この事件の主人公であるKは、トリカブト毒もふぐ毒も摂取するとたちまち死に至る即効性があり、

別れて1時間半後に私はその場所にいなかったと主張。毒の特性を盾にアリバイを主張しました。

結局その主張は、血液の鑑定をした大学教授が、「両方の毒を混ぜると、お互いの作用が弱まり(拮抗作用)、

一定時間作用は現出しない。しかし、その作用は半減期の違う毒のバランスが崩れたときに終わり、症状が現出する」

ことで崩れたのでした。その後Kは別件で逮捕されたのち、この保険金殺人の罪で無期懲役となり、

2012年(平成24年)11月収監中の大阪医療刑務所にて病死しました。73歳でした。


大学教授を父に持つ犯人Kは、とても頭の良い人だったのでしょう。しかし、いつの時代も完全犯罪は

あり得ません。よこしまな考えを起こす前に、その能力をもっと他に活かせる方法論を考えるべきでした。